高尾、上野原駅あたりではけっこうまとまった雨が降っていた。今日は温泉だけ入って帰ろうかと思っていたら、笹子トンネルを抜けると青空と眩しいくらいの日差しが現れた。ひと山越えただけでこうも天気が違うのも、珍しい。
中央線の塩山駅からタクシーに乗る。登山口のオーチャード・ビレッジ・フフまで、バスと徒歩で行けるが少し時間が遅くなる。
今日は、どれくらいかかるかわからない尾根を下るつもりなので、早めに登山口を目指した。
小楢山に咲くアヤメ
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晴れているといっても、タクシーから見る乾徳山や大菩薩嶺などは上部が雲の中。やがて見えて来た小楢山も同じだった。
運転手さんによると、乙女高原のレンゲツツジは先週が見頃だったそうだ。小楢山にはどんな花が咲いているだろうか。
駐車場の奥でタクシーを降りる。道脇には、早やマルバシモツケが咲き出していた。タクシー代は3060円のところを3000円にまけてくれた。
先に伸びる林道に入って行く。指導標などは特にない。
林道はすぐに左右に分かれる。右に上がり気味の道に入る。ホタルブクロやオオバギボウシが、一足早く初夏の到来を告げている。
山ノ神を左に見、いくつか分岐があるが道なりに上がっていく。コアジサイが満開、頭上にエゾハルゼミの鳴き声がやかましいくらいだ。
気がつけば青空は見えなくなり、以後しばらくは鉛色の空の下を登っていく。
時々「小楢山登山道」の指導標を見かける。父恋し路の取り付き口を過ぎ、さらに登ると林道は大きく迂回し、そこに母恋し路の入口がある。
樹林に囲まれた枯れ沢状の山道は下草が伸び、蒸すように暑苦しい。ガスが濃さを増すほどに気が重くなる。何度も小休止を取りながら高度を上げて行く。
大岩の横を通り過ぎ、ようやく小楢峠に着く。左は幕岩(ばくいわ)を通って鼓川(つづみがわ)温泉に直接下りる道(これを下る予定)、右は小楢山頂上への道と、その巻き道が続いている。
レンゲツツジ
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シラカバの目立つ山頂付近
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頂上まで、さほど急でない登りを15分ほどこなす。ようやく蒸し暑さからも開放され、小広い小楢山頂上(1713m)に到着。
あずまやに数人が休憩、やがて焼山峠方面から団体が登って来て、たちまちにぎやかな頂上になった。
開けた場所ではあるが、今日は四方が乳白色の眺め。アヤメがあちこちに咲いている。濃紫の花びらが鮮やかで、それでいてどことなく高貴な印象を受ける。
焼山峠の方向へ向かうと、すぐに、レンゲツツジとアヤメのちょっとしたお花畑となる。レンゲツツジのほうはもうほとんど終わりかけていたが、それでもアヤメと周囲にシラカバの白い幹、草の緑とのコントラストが鮮やかだ。
梅雨時は蒸して登山には不向きな気候だが、逆に草木や花の色合いは、年間を通してこの時期が一番瑞々しく映る。
アヤメ
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一杯水のところまで下る。先ほどの小楢峠に通じる巻き道と、焼山峠との分岐点になっている。巻き道に進む。なお、一杯水の水場はほとんど枯れていた。
ここの巻き道は雑木に囲まれた平坦道で、この付近で一番のんびり歩ける。カラマツソウを見ながらすぐに小楢峠に着く。
今度は幕岩方面へ進む。道はやや細くなるがはっきりしている。眺めの少しある岩頭を経て、幕岩の北側の基部に着く。
こちら側から登る踏み跡も付いてはいるが、鎖もなく上の方がちょっとあぶない。南側に回りこみ、長い鎖を頼りに岩の間をよじ登る。
幕岩の上に飛び出す。四方が開け360度の展望が得られる。山梨側は雲が厚いが長野側は晴れ、青空が覗いている。雲間から金峰山の五丈岩がよく見える。
幕岩から金峰山
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富士見台から牧丘町を見下ろす
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一方、すぐ近くの小楢山の頂稜部は濃いガスで覆われている。結局、どういう形の山なのかがよくわからない。
さっきの鎖を下る。足場は豊富だが狭くてけっこう難儀する。
さらに南下、次なるピークは大沢ノ頭(1673m)だ。父恋し路がここまで上がってきている。眺めはあるが幕岩ほどではない。山梨側の雲も少しずつ薄くなって来ている。
さてここからはあまり歩かれていない道のはずだ。大沢ノ頭から鼓川温泉への登山道は最近牧丘町が整備したそうで、エアリアマップなどでは点線扱いであるが、牧丘町のホームページでは「距離は長いが展望のよい道」として紹介している。
ただし小楢山は焼山峠まで車で上がってピストンするのが圧倒的に多いパターンということで、この新道もそれほど使われてはいないだろうと見ていた。
実際のところ、足跡もほとんどなく(踏み跡はしっかりしている)、静かな山歩きにうってつけな道であった。秋口から冬が適期だろう。今の時期は下草が繁茂して、登りの母恋し路以上にむせ返るほどである。
しかし温泉に直接下れるのでそれだけでも価値が高い。焼山峠に下ると、車を使わない者にとっては車道歩きが半端でなく長い。
大沢ノ頭以降、天狗岩・みだれ岩・見返りの岩・富士見台・妙見山とピークを次々と越えて行く。さほどアップダウンは大きくはない。
展望は各場所でそこそこあるが、見返りの岩からが特によかった。冬期はさらに展望の尾根になるだろう。周囲はカラマツ、松のほか、杉の植林が目に付く。
なお、見返りの岩への登り返しは岩場となるが鎖が設置されている。難度は幕岩のそれを少し優しくしたくらいだ。
妙見山の三角点がある差山を越え、さらに緩いアップダウンをこなす。妙見山(1358m)からさらに下り電波塔の横を通り過ぎると、以降は植林帯きつい下りが鼓川温泉まで続く。下りきったところでオカトラノオを見れた。山村の里道はもう初夏の装いである。
登山道が尽き車道に出る。左に10mも行くと、すぐに鼓川温泉だ。ツルツル感あふれるまろやかなお湯は極楽。
町営バスを乗り継ぎ塩山駅に戻る。最初はうだるような暑さだったが、思い切り羽を伸ばせた1日だった。
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