茅ヶ岳と金ヶ岳は山梨県明野村の北東方向に聳え立つ山群で、中央線韮崎駅からも、その姿が真っ先に視界に捉えられる。
死火山らしく平地へなだらかな裾野を引いており、その姿形から「ニセ八ツ」などと言われるが、遠目から見るとなるほどよく似ている。今の季節なら、頂に雪を被っているかどうかですぐ見分けがつく。
周囲に高い山の無い独立山群なので展望は素晴らしい。2001年の夏に大明神登山口から登ったが、今回も同じコースを辿ることにした。
茅ヶ岳・金ヶ岳
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氷柱の発達する女岩
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早朝の中央線は暖房の効きが弱く凍えるほどだ。韮崎駅で下車する。
気持ちのいい冬の青空をバックに八ヶ岳、甲斐駒を中心とした南アルプスの雄姿が白く輝いている。そしてタクシーで向かう先には茅ヶ岳・金ヶ岳のたおやかな山容もはっきり見える。タクシーは穂坂のバス停(終点)を過ぎ、大明神登山口へ向かう。
登山口には車が数台。静かで冬の寒気がピンと張り詰めている。
深田公園の方角に進む。茅ヶ岳は日本百名山の著者、深田久弥が登山中に亡くなった山としても知られている。あずまやがあるだけの公園だが、氏の語録「百の頂に百の喜びあり」の記念碑が建てられている。
公園の一角に饅頭(まんじゅう)峠への指導標がある。この道は茅ヶ岳への尾根コースに通じている。ガイドにもたまに紹介されているがこの道もいずれ登ってみたいものだ。今日は一般コースである女岩経由の道を採る。
少し戻って、車の轍が残る林道を歩き始める。しばらくは平坦なカラマツ・アカマツ林で、日が射さず寒い。雪はうっすらと積もっている程度だ。八ヶ岳への登路である美濃戸口からの平坦道に雰囲気が似ている。
いつしか轍も見られなくなり、両側から尾根が迫って来る。登山道もにわかに傾斜を増す。オーバーヤッケを脱ぐ。道は時々日だまりの場所を縫うようにもなる。
やがて正面に大きな岩壁が立ちはだかる。女岩で、この登山道唯一の水場がある。こんな冬の季節でも、水は岩の割れ目から豊かに出ている。周囲は氷柱(つらら)が発達している。
登山道はここから右の尾根に取り付き、ジグザグの急登が始まる。日当たりがよく、この場所だけ雪があまりついていない。背後には、樹間から南アルプスの眺めが広がる。
ジグザグが終わっても、遥か上に見える稜線まできつい登りが続く。これが意外と長い。しかし周囲は豊かな自然林で気持ちがいい。紅葉が終わりモノトーンと化した山肌に、雪の白さが加わり、冬の澄み切った青空とよいコントラストを呈している。
稜線に登り着く。大明神岳との鞍部で、左は茅ヶ岳、指導標は右・大明神岳の方向を「敷島」と示しているがこの道はあまり山行の報告がなく、雪上にトレースはない(トレースと言っても、周囲の積雪は10cm程度だが)。
茅ヶ岳に向かって少し登ると、すぐに「深田久弥終焉の地」に着く。石碑が奉られている。「このあたりは5月にイワカガミが多く咲くんですよ」「そうか、それはきれいだろうねえ」それが氏の、最期の言葉となったそうである。石碑の高さに視線を置いてみると、北方に金峰山の姿が美しい。
そこから茅ヶ岳へは、天に通ずるような、青空に向かっての岩尾根の登りとなる。振り返ると甲府盆地の向こうに、逆光に輝く富士山。今シーズン一番大きく見える富士山だ。
一直線の登りなので、何度か騙されたあげくようやく茅ヶ岳頂上に着く。ほぼ360度の展望だが、木が生えているためにのんびり腰を下ろしての眺めは得られにくい。座高の高い人が有利だ。
それでもあちこち移動して富士山、八ヶ岳、甲斐駒・地蔵岳・鋸岳など南アルプス、金峰山など奥秩父山塊と、東西南北に配置された名峰を十分展望出来る。北東遠くに見える平坦で白い頂は大菩薩嶺だろう。風も無く暖かな頂上で、ちょっと早い昼休憩とした。しかしこの頃から雲が太陽を覆い始めるようになる。
金ヶ岳まで、やせた岩尾根をいったん大きく下る。若干スリルを感じつつ、雪の付いた尾根を足場を確かめながら下って行く。
その後登りに転じ石門をくぐる。傾斜の無い場所は積雪が若干増える。凍ってはいないのでアイゼンは不要(というか付けていると逆に危険)だが、足跡を見るとどうやらアイゼンの跡がある。岩場の雪のない場所は苦労するだろう。
観音峠への道(足跡なし)を分け小ピークに登る。ここは南峰だろう。茅ヶ岳と、その後ろに富士山が大きく望める。
さらに上り下りをして、金ヶ岳頂上。北西面が樹林で閉ざされているが富士山、南アルプス方面の展望が効く。日光の角度のせいだろうか、甲斐駒などの頂上はさっきより雪が少なくなっているように思える。樹林越しに八ヶ岳が見えるがガスがかかり麓しか見えなくなっている。これから下る東光方面への尾根がきれいに明野村に落ち込んでいる。
東光開拓地への下りは細い岩尾根で、まだらに雪の付いている所はかなり難儀する。かと思うと、南に面した道では全く雪が無い普通の落ち葉道だ。
少し下ると岩上のテラスがあり八ヶ岳の格好の展望台なのだが、八ヶ岳側にかかったガスで全く見えなかった。ここは一昨年に歩いて以来目を付けていた所だったので残念に思う。朝はきれいに見えていたので、この山は、どうせタクシーを使うなら東光まで乗って、逆コースを歩いたほうが、より展望を楽しめるだろう。
金ヶ岳から茅ヶ岳、富士山
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東光開拓地の畑越しに南ア展望
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尾根が広まり急坂もなくなる。雪のせいか自分が遅いのか、林道に下りたのは金ヶ岳から1時間半後だった。
ここからは、明野村の一直線の舗装道路を下ることになる。正面に南アルプスが見えるのだが、夏歩いたときは汗が噴き出した。ここ明野村は、日本でも有数の「昼間が長い」土地である。
今の季節は除雪され歩行は問題ない。付近には果樹園やフラワーセンターがあり、春は楽しい道になるだろう。西側の防風林が途切れ八ヶ岳が望めた。ガスがかかっていたのはどうやら、自分が金ヶ岳付近にいたときだけのようだ。
広域農道と交差するところで左折する。500mほどで明野ふるさと太陽館という建物に着く。「茅の湯」という温泉施設があるので立ち寄っていく。宿泊も出来る(1泊2食で8000円)が、一人だと3000円の割増しなので考えものだ。
シーズンはここからのバスもあるのだが、今日はさらに舗装道路を30分ほど下り、明野村役場のバス停まで歩く。八ヶ岳が西日に輝いている。あの姿を山の上から撮りたかった。次の機会としよう。
茅ヶ岳はオールシーズン登れる山と思った。早春から春の花が咲く季節がひとつの登り頃だろう。
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