芽吹きの風景
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都心では桜が満開、一気に春めいてきた。しかし今の時期は、山麓でもちょっと標高の高い所はまだ冬のたたずまいだったりする。
今日登る仙人ガ岳は、登下山口から沢沿いの道が春らしい雰囲気であふれていそうだ。
高崎駅で両毛線に乗り換える。車窓には、榛名山を背景に菜の花畑が広がっている。
桐生駅からは小さなおりひめバスに乗る。周囲の山肌は桜や芽吹きの木々で彩られ始めた。春の似合う山地である。
瀬場橋入口で下車するが、特に山を示す指導標はない。地形図を頼りに川を渡り、道なりに進む。どこかでウグイスが鳴く。
少し先に塩ノ瀬神社が見える。境内に登山口があるとのこと、探すが見つからず。右手の墓地に進むがすぐ行き止まりとなる。
境内に戻り、左奥にある小社の後ろに取り付き口を見つける。檜林の登りとなるが、ところどころ倒木や枝木が散乱し、それほど歩かれていないようだ。
やがて雑木が現れ、明るい尾根道になる。眼下の町なみがどんどん小さくなっていく。
シュンランを目にするがスミレなどはなく、春の山道としてはやや寂しい。しかし木々はもう芽吹き始めたものが見られ、枝先を黄色や赤に染め上げている。萌黄(もえぎ)色は春の山の色、心情的には紅葉の時期よりも色鮮やかに映る。そして深紅のツツジも随所で見かける。
雑木林越しに仙人ガ岳
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仙人ガ岳頂上
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小さな祠を見てさらに高度を上げる。左手に仙人ガ岳の整った山容を見ながら、最初の急登をこなす。
「102基準点」と書かれた小さなピークに着く。手書きで「前仙人へ」と初めて標識を目にする。ここまでは時々ビニールテープを見かける以外、導標はない。
踏み跡はときどきあいまいになる。とにかく尾根伝いに歩いていけばいいが、ときどき藪の中に入り込んでしまう。
小さなアップダウンののち尾根がやせて来て、若干の岩場も出てくる。ふと横を見ると、今にも落ちていきそうな大岩が斜面にそそり立っている。そのさまはまるで腰を下ろした仙人の後ろ姿だ。すぐ手前にアカヤシオが開花している。
目の前にそびえる前仙人目指して、更なる急な登り。着いた前仙人頂上(647m)は狭く、パッとしない場所だ。活字書きの山名板がこの地味な場所に不釣り合いである。
前仙人から仙人ガ岳までは細かいアップダウンの連続だ。アカマツの多い道だが潅木は芽吹き、今にも花開きそうなツツジも見られる。
今まで下のほうから聞こえていた車の音も絶え、低山とは思えない静けさが支配する。
一色コースや黒谷ダムへの下り道を分け、なおもアップダウンが続く。そのうち夫婦を追い越す。「山頂はまだですかね」「あと10分くらいですよ」目の前に仙人ガ岳の大きな塊が近づく。
直前の小ピークからは若干展望が利き、まだ白いものの目立つ袈裟丸山を望む。
仙人ガ岳頂上に着く。登山者は10名ほどが三々五々。展望は、木の間越しに赤城が望める程度であるが、明るい雰囲気に満ちた気持ちよい山頂だ。青空と春のほんわかとした空気がよく似合う。
ここのところ睡眠不足の日々が続いていたので、昼食ののち少しうたたねしてしまった。
春の花咲く生不動尊コース
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ヒトツバエゾスミレ
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ニリンソウ
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ニリンソウ
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ネコノメソウ
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トウゴクサバノオ
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カタクリ
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サクラ満開の里道
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小俣北町の風景
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下山は生不動尊コースをとる。尾根コースとの分岐点からは急な下りとなるが、それも短くやがて沢の源頭部に着く。
傍らにさっそくタチツボスミレ、さらに鳴神山でも見たヒトツバエゾスミレもあちこちに咲いている。
そしてニリンソウやネコノメソウ、ユリワサビ。トウゴクサバノオも多い。みな小さく秘めやかな花ばかりだが、高くなった日をいっぱいに受けて、それこそ伸び上がるように、自分の存在をアピールしている。
下るにつれ、ニリンソウの多さに驚く。3年前の3月に来たときはさすがに数輪を見たのみだったが、今日はまさに満開状態だ。
生不動尊を過ぎて、やがてカタクリの保護地に着くが花は終わっていた。しかし保護地を離れ少し行くとまだ咲き残りがあった。
沢を高巻く道となり、春爛漫の花の道もそろそろ終わりだ。しかし小俣北町の集落に近づくと、今度は桜が出てくる。しかも梅まで咲き残っている。
やはりこの時期は、登下山口の標高が低い山を選んだほうが、終始春爛漫の雰囲気を味わえていい。それと引き換えに、花粉の量も相当のものであるが。
小俣北町バス停の前は桜が満開だ。バスまでまだ1時間半ほどある。車でさっさと帰って行ってしまうほかの登山者を見送り、自分は近くのベンチに腰掛けてうつらうつら、春眠をむさぼることにする。
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