~ヤセ尾根と絶壁の岩稜を行く~
ふたごやま
(1165m)
2003年11月23日(日)快晴
7:03西武秩父駅-[バス, 小鹿野役場乗換え]-8:15
坂本バス停8:20-9:25股峠9:30-10:10西岳中央峰10:35-11:00西峰11:10-11:30鎖場-11:45ローソク岩分岐-11:50魚尾道峠-12:35坂本バス停
12:40-[バス, 小鹿野役場乗換え]-14:15西武秩父駅
歩行時間:3時間35分
五反田の自宅から山手線の一番電車に乗れば、西武秩父駅に7時少し前に着く。日・休日は7時3分発の小鹿野車庫行きバスがあるので、二子山の登山口である
坂本
へは意外と早い時間に着くことが出来る。
紅葉の登り
二子山荘の横の細い車道を上がって行く。進む先に、早くも二子山の奇異な岩峰が大きい。周囲の家や林にはまだ日が当たっていないので、ひとり明るい岩峰がまさに威圧的に映る。
杉林に入り再び車道に上がると、
民宿「登人」
の前に出る。左の車道の脇に簡易トイレ、その向かいに登山口がある。
再び薄暗い杉林がしばらく続くが、やがて紅葉のきれいな雑木林の中となる。斜度は増し、いつしかジグザグの急登となっている。振り返ると紅変した木々の葉の向こうに両神山が大きくそびえている。
ローソク岩への分岐を過ぎ、間もなく
股峠
に着く。
右は東岳、直進して下って行く道は長沢(ちょうざわ)に至る。その方向から大きなザックを担いだグループが2組やって来た。二子山西岳(南壁)のクライミングをする人たちで、股峠で立ち止まらず、そのままローソク岩分岐に入って行った。
東岳は困難な岩場があるとのことで、迷ったが登らないことにし、今日は左方の西岳に絞ることにした。
西岳への登りも、上級者コースと初級者コースとに分かれていて(どこが分岐か、見逃してしまった)、これも初級者コースの方を行く。ちょっと弱気な気もしたが、この初級者コースのほうも、樹林の中を登るものの岩場がある。
両神山
オーバーハング気味に直上する鎖場があって、かなりハードで緊張する。鎖場の通過は最近ご無沙汰だったので、腰が引けてしまう。通過に手間取り、上から下りて来た人にかなり長い時間待たせてしまった。
やがて
稜線
に出て一気に展望が開ける。足元が切れ立った岩場のやせ尾根を少し進むと西岳頂上となるが、そこまでにも1箇所、尾根の縁を回り込むような鎖場があり、ここでも恥ずかしいくらいに時間をかけてしまう。
二子山西岳・中央峰
両神山の展望
西峰と叶山
岩稜を伝ってようやく
西岳・中央峰の頂上
(1165m)。目の前に両神山が大きい。しかし足が震えている。こんなことは初めてだ。
北側は若干潅木に遮られるものの、御荷鉾山やおむすび形のオドケ山など、西上州の山々が望める。
そういえば、この二子山は西上州の山と区分けされるのが一般的だが、山そのものは埼玉県側(小鹿野町)にあるので正確には秩父の山なのだろう。しかしこのゴツゴツした岩山のイメージはまさに西上州の山そのもので、その中でもひときわアクの強い存在と言える。
西に見えるもうひとつの尖峰が西岳の「西峰」だ。今いる頂上からはまさにナイフリッジ、ゴジラの背のような岩尾根で結ばれている。
ここをたどっていくのだが、最初の一歩は勇気が要る。なにしろ両側がスパッと切れ落ちた、細いところは幅1m程度の岩稜である。ここで足を滑らせたら「滑落」でなくて「墜落」するだろう、そんなことが頭をかすめ、若干の戦慄を覚える。
西峰を目指し、無我夢中で岩稜を渡り歩く。石灰岩の山なので手がかりや足場は意外なほど豊富だ。そのためであろう、こんなナイフリッジ状のやせ尾根なのに鎖が設置されている所はない。
手を使い全身を駆使しながら夢中で進むうちに、何となくコツみないなものがつかめてきた。常に三点確保の姿勢を意識することだ。
穂高や南八ヶ岳でしっかり心得ていたつもりが、最近こうした岩場を歩いていなかったので忘れていた。
西峰から二子山中央峰
心に余裕が出来てくると周りが見えてくる。岩稜を回り込むように、所々巻き道が付いているところもある。そんなこんなでいつの間にか
西峰
にたどり着いた。
相変わらず両神山が立派だ。そして西側には、山頂部を削り取られた叶山の無残な姿が眼前にある。
二子山も叶山と同じく、全山石灰岩の山なのでセメントの材料として、一時は削り取られる危機もあったと聞く。
周囲の人々の反対の声により、今はそういう動きは影を潜めているが油断は出来ないとのことである。
自分が登った山が、数年後になくなっているとしたら、それはショックであろう。
やがて岩稜ともお別れの場所に来た。と思ったら、垂直の5m超の絶壁。ここには鎖が下がっている。
足がかりを探しながらゆっくり下る。この
鎖場
は見たほどに困難な場所ではないように思えた。ただしこの後も、ローソク岩分岐あたりまで滑りやすい急坂が続くので、慎重を期す場面がなおも続く。
やがて道は平坦となり、安堵感が広がった。振り返るとそこには、何事も無かったように山道が伸びている。
魚尾道峠から二子山の南壁
緩く坂を下ると
魚尾道峠
(よのおみちとうげ)に着く。東側の杉林が広く伐採され、今歩いてきた二子山の岩壁があらわに見上げられる。この眺めは圧巻で、よくこんな所を下りて来たなと感心する、というかあきれる。
また、こちら側を登路に取ると、この岩壁を見上げたとたんに足がすくんでしまうことも考えられる。それほど見ごたえのある眺めであった。
暖かい陽射しを受けて高度を下げ、やがて
車道
に下りる。再び二子山西岳・東岳の姿が大きく捉えられる。
登人の前を通ってからは朝来た道を下って行く。
坂本バス停
に戻る。12時40分発のバスはもう来ていた。自分一人を乗せたバスは小鹿野役場へ戻っていく。
この日は秩父の温泉旅館「旅籠美あさ」に泊まる。「大竜寺源泉」は肌ざわりがよく、なかなかいい湯質だ。秩父の温泉は地味なイメージだが、高アルカリの湯が多くよく温まる。この冬も何度か利用したいものだ。
翌朝は秩父の山に登ろうと思って早出もしたが、どんよりした曇りの空を見て、登る気力が失せた。二子山でお腹一杯になってしまっていたこともあるだろう。