坪山は昨年の春登ろうとしたが、バス停に並ぶ人のあまりの多さに圧倒され、他の山に変更した。ヒカゲツツジやイワカガミなど花で知られた山で、4月から5月は大混雑する。
冬の時期はあまり見向きもされないだろう。ただ頂上からの展望はいいと聞くので、冬枯れのこの時期に登った。
少し前までは物好きしか注目しないヤブ山だったらしい。今は富士急山梨バスや地元の人によって登山道は整備されている。
ロープのある急登
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坪山頂上
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上野原駅からのバスは、おそらく全員が登山者だろう。団体さんもいて1台増発となった。
運転手は付近の山の説明に熱心で、奈良倉山、権現山などをすすめている。解説はありがたいが、ワンマン車なので運転に集中してもらいたい気もする。なお坪山山中の導標は、富士急山梨バスの人たちの手によって立てられたものだそうである。
途中のバス停で権現山に登る人が数人下りる。2組の団体も少し先の田和で下車した。こちらは笹尾根だろう。さらに奥へ行く人は5,6名となった。自分は阿寺沢入口で下りる。
横の車道を下って数分で登山口の前に着く。暗くて、導標がなければ通り過ぎてしまいそうな所だ。
坪山は、以前はこの阿寺沢コースがよく登られていたようだが、今では御岳神社やびりゅう館からのコースが整備され、そちらがメインコースになっているようだ。ヒカゲツツジは御岳神社コースに多くあるらしい。
尾根筋に出るところで右手に分岐する踏み跡があり、少し迷ったがそのまま尾根伝いに行く。方向としては西から北西である。
傾斜は急ではないがほぼ直登なのでなかなかきつい。植林帯を経て右半分が雑木林になる。雪は全く無い。
ところどころに坪山を示す古い導標が立つ。これは富士急バスの人によるものではないようだ。途中ツガだろうか、堂々とした大木が行く手に鎮座している。
やがてびりゅう館からの道に出会う。登りは緩やかになり自然林の森に入る。コナラやアカマツ、シラカバも混ざる。木を透かして左に権現山の丸い山頂部、右に笹尾根がよく見える。権現山の北斜面は雪がついている。
坪山頂上から三頭山、笹尾根の展望
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尾根はやせ露岩も出てきて、場所によってはちょっとしたスリルも味わう。トラロープや木につかまりで急斜面を這い上がりながらいくつもの小ピークを越えていく。
やはり樹林越しに奈良倉山が見えるようになる頃、1034mピークに着く。正面にはちょっととんがり気味の坪山が現れる。下って最後の急登。左側が大きく切れ落ちていて今後の崩壊が心配される。
頭上が開けたと思ったら坪山頂上だった。低木が若干あるものの、ほぼ全方位の展望が得られる。富士山は、とあたりを探してみたら進んできた方向の真後ろに顔を出していた。登山路はいつの間にか北方向に向いていたようである。
頂上からは雲取山、飛竜山などの奥秩父山塊や大菩薩などの眺めもいいが、目を引くのはやはり三頭山と笹尾根の姿である。笹尾根は頭から尻尾まで、長大な尾根筋を全部見渡せる。坪山は笹尾根の一番の展望台であろう。
しかしここまで誰一人として会っていない。冬の坪山はそれは静かな山である。
下山は松姫鉱泉のある中風呂とする。こちら側の斜面は少し雪が残っている。
目の上に大きなピークが待ち構えており、坪山よりも高そうである。このピークを登山道は巻くのだろうか、と思いながら進むと案の定巻き道がついていた。しかし雪の積もった北斜面のトラバースなので、やはり尾根伝いに行こうと思い直す。
小さな突起を越え、さらにきつい急登をこなして1170mピークにつく(地形図には標高表示なし)。姿形とはうらはらに、山名板も何もつけられていない地味なピークだ。
分岐に着く。左折は西原峠、直進は佐野峠方面へ向かう。このへんは自然林が豊かで雪もまだらに残り、なかなかいい場所である。紅葉の時期もいいだろう。
左折して緩く下り、ほどなく林道に下りる。さらにもっと太い林道に合流すると西原峠だ。林道からは東面が開けている。
4年前にも使った中風呂への下山道に入る。振り返って峠を見上げると青空が眩しい。この道を登りにとって峠越えの気分を味わうのもいいと思う。西原峠は林道が通ってしまったが、雰囲気のいい峠である。
植林と雑木林が交互に現れるこの道も、4年前に比べてだいぶ樹木の背が高くなった。権現山から伸びる鋸尾根が木の枝に隠れて見えづらくなっている。中風呂の集落が見え出した頃、山の間から富士山が現れた。
中風呂バス停は松姫鉱泉の前にある。シーズンオフで鉱泉は沸かしてないと思っていたが、「日帰り入浴できます」との看板が。中には人のいる様子がなかったので電話をしたところ、近くからご主人さんが車でやってきた。
500円を払って宿に入る。ひんやりした空気が漂う。やはり誰も宿泊していないようだ。小金沢の渓流釣りシーズンになるまでは静かな山里であろう。
坪山では誰にも会わなかったし、松姫の湯も独り占めだった。ほのかな香りがする鉱泉らしいお湯が身にしみわたる。
路線バスには上和田から来たハイキング客が乗っていた。車窓から立春の暖かい陽射しを受け、うつらうつらしながら猿橋駅まで戻る。
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