涸沢の紅葉がまだ目に焼き付いている。紅葉シーズン到来で東北の山にも行きたいのだが、今週末は近場の山にする。好天が続いているので展望のよいところにした。
大菩薩峠の南にある石丸峠には、開放的な草原が広がっている。付近にカラマツの美林があり富士山を中心とした展望もよい。
塩山駅7時28分発のバスは座席が全部埋まるほど。タクシー乗り場に向かうグループも多い。
終点の大菩薩登山口(裂石)で降りる。下りる人はみんなザックが小さく、軽いハイキング風の格好で、バス停付近にはいつもとちょっと違う雰囲気が漂う。ショルダーバッグを下げている人もいる。
30分ほどの車道歩きだが、上日川峠に上がって行く車やタクシーにどんどん抜かれて行く。
カラマツの黄葉
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千石茶屋を過ぎ、山道に入る。上日川峠まで1時間半の樹林帯の登りだ。木々の葉は色付くにはまだまだ早いが、上の方に行くにつれて、緑の色あいが軽くなっていくのがわかる。
自然林の豊かな、気持ちのいい尾根道だ。ただし時々、上日川峠に向かう車道が上のほうに見える。
再び車道に上がり、ロッジ長兵衛の建つ上日川峠に到着。人と車で大混雑だ。駐車場はすでに満杯で、日川尾根に向かう林道には、延々と路上駐車の列が出来ている。駐車場所に困っている車も見受けられる。
駐車場からは南アルプスが巨大な壁のように眺められる。
ほとんどの人が福ちゃん荘~大菩薩峠の方向に行くのを尻目に、石丸峠への道に入る。始めはやや下りの、幅広の道だが、林道延伸工事用のトラクタ道がかなりの部分を占めている。人の歩く場所とは、工事用のトラロープで仕切られている。
廃屋となった大菩薩館の前を過ぎ、沢を何度か横切る。このへんまでは下りの道が続く。前方が開けると、再び工事中の林道と出会い、沢をまたいだら本格的な登りとなる。
山並みの向こうに富士山
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石丸峠
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伐採された木が放置されていて見苦しいところもある。高度をどんどん上げていくとカラマツ林の登りになる。カラマツの向こうにはでっかい富士山が鎮座している。
林道を2回またぎ、さらに急な登りとなる。しばらくすると、上方の樹林が途切れているのが視界に入る。登り着いたところは切り開きとなっており、ススキ越しに石丸峠のたおやかなスロープと、黒々とした小金沢山の眺めが得られる。
再度カラマツ林の中となる。このへんになるときれいに黄葉していて気分よく高度を稼げる。
ほどなくあたりが開け、ススキの穂が揺れる笹原を目の前にする。前方に見える石丸峠に向かって、今歩いている1本の道が続いている。左上方に熊沢山の草付の斜面だ。熊沢山は大菩薩峠と石丸峠を隔てている。この向こう側に賑わう大菩薩峠がある。
小金沢山の右には、ちょっとだけ雪をまとった富士山が、秀麗な姿で横たわっている。
石丸峠から天狗棚山はものの10分程度だ。石丸峠から見れば山と言うよりも、ちょっとした盛り上がり程度にしか見えない。しかし標高は1900mを越えていて、何と言っても展望が素晴らしい。360度である。
きれいに紅葉したドウダンツツジの木を見ながら山頂へ。マツムシソウが1輪、咲き残っている。リンドウの青い花もあちこちで見られる。
山頂から熊沢山
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天狗棚山(1957m)からは広大な眺めが広がる。稜線の反対側には奥多摩の山々、笹の緑色がまだ残る石丸峠から熊沢山越しに、大菩薩峠の「妙見の頭」が覗いている。八ヶ岳も見える。南側の斜面には、狼平の草原を挟んで小金沢山が大きい。
また眼下にカラマツの林、赤く色づいたツツジの低木類。その向こうに上日川ダムの湖面が青々としている。延伸されてしまった林道が見えるのが残念だが、この広大な眺めを快晴の下で得られるとはうれしい。ダムのはるか下には甲府盆地、もちろん南アルプスも。
だが、何か物足りなく感じる。そうだ、富士山が見えない。小金沢山のでかいずうたいに隠されてしまい、頂上から裾野まで、完ぺきに見えないのだ。
山梨県の標高1900mを越えた、しかも360度展望の山で富士山が見えないとは新発見。かえって貴重な存在かもしれない。
天狗棚山だけを目的に登って来る人もそういないと思うが、もしこの山に登る時は、石丸峠付近で十分に富士山を眺めてきたほうがいいだろう。
山頂には腰を下ろせる場所がないので、30mほど下がった岩棚で休憩する。ここはさしずめ、天狗様の踊り場とでも言えそうだ。
下山は大菩薩峠を経て裂石に戻ってもよかったが、混雑を避けて、長いけれども牛ノ寝通りを下った。
牛ノ寝通りは文字通り、寝そべっている牛の背中のような尾根道で、そのほとんどが自然林豊かな平坦道である。
榧ノ尾山
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天狗棚山を下りすぐの所にある、牛ノ寝通りへの分岐に入る。始めはやや急な下りが続く。このへんは牛の首筋のようなものだろう。
紅葉はこの下りあたりまでで、それ以降は緑の樹林帯が続いた。透過光に揺らめくカエデの葉がきれいだ。
大方樹林帯で展望に乏しいが、榧ノ尾山(かやのおやま)は左右に伐採の手が入り、右(南)側に雁ガ腹摺山が望める。その後も平坦な道が続き、やはり開けた大ダワからは北面に石尾根と雲取山も見れる。
大ダワを過ぎるとようやく下り始める。山腹を巻き、再び尾根に乗るとはっきりした下りになる。
小菅方面の分岐を見送り、小菅の湯の方向に向かう。1箇所、踏み跡がはっきりしない所があるが道なりに下って行く。MTBのグループが過ぎて行く。この道は自転車も快適だろう。
桧林の急坂を下る。途中、真新しい小屋が建っているのを見る。「瀬音の森 山小屋」と書いてあり、もしかして新しい避難小屋でも出来たかと思ったら、どうやら桧林の間伐作業のための作業小屋のようである。もっとも、麓までは目と鼻の距離なので、こんなところに登山者用の小屋があっても、泊まろうとする人はいないと思うが。
田元集落の林道に下り立つ。小菅の湯への里の道がわかりづらく(もう何度も通っているのに)、農作業のおばあさんに道を聞く。
舟木民宿のご夫婦(と思われる)に声をかけられる。「上から4時間かけて下りてきました」と言うと、ご苦労様とねぎらわれる。
小菅の湯で汗を流し、村営バスに乗る。暮れなずむ山村の風景を見ながら、バスで奥多摩駅まで揺られ行く。
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