久しぶりの晴天の下、初狩駅を出発。歩き出しから晴れているのはいつ以来か、もう思い出せない。
国道を少し歩くと、高速道越しに滝子山が望めた。今日登る殿平、鞍吾山は標高も低いため、周囲の山稜に隠れているようだ。
三角点のある鞍吾山山頂
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藤沢地区の里道を行く。振り返ると頭に雪を抱いた霊峰富士の姿が大きい。富士山を見るのもかなり久しぶりである。今日は見る景色全てが青空の下でうれしい。
滝子山への道と別れるとやがて、藤沢子神社に着く。殿平を示す、大月市のおなじみの標識が立っていた。境内には大月市指定文化財の「藤沢の大スギ」があった。
登山道は神社の裏手、杉林の登りから始まる。すぐに尾根に出て、雑木の中を緩く登っていくと、富士山が再び現れる。今日の山は山頂の展望はないようなので、今のうちに写真に収めておく。右手に見える大きな山体は何だろう。岩殿山にしては標高が高い。
アカマツの混ざる雑木林の中を緩やかに登って最初のピーク、百反刈山に着く。どこと言って特徴のない山である。木の間から、この先の殿平のピークが見えた。この辺りは高速や国道からの車の音がまだ大きく聞こえ、里山風情である。
その先も、最後こそちょっとした登りはあったものの大きな苦労はなく、木に囲まれた殿平の山頂に到達した。展望はないが何となく落ち着ける、のんびりした山頂である。
岩殿山が武田氏が城を構えた山なら、殿平はお城の近くのなだらかな丘、という意味か。同じような地形の山で、奥多摩と奥秩父の境に丹波天平(たばでんでいろ)があるが、ここはすなおに「でんだいら」と読ませるみたいだ。
一休みしたのち、出発する。尾根通しに歩き鞍吾山に登頂後、恵能野に下山するのが今日の行程である。
殿平から先は一般ルートではなく、もともと薄かった踏み跡もさらにわかりにくくなる。急な下りの途中で、小さな導標を見る。藤沢集落への下り道は難路とのことだ。稜線を行く道は次第に痩せ尾根状となり、時たま現れる倒木を乗り越えたりするのに意外と苦労する。
アカマツ、コナラ、アシビが多い。標高は低いのだが、どんどん山奥深く入っていく感じで車の音もいつの間にか聞こえなくなっていた。アンテナを見た後、岩交じりの急登を経て860m点に到達。
さらに尾根を進み、再度の急な登りが始まる。ここからが今日の核心部、鞍吾山直下の激登だ。急傾斜の斜面を、木や岩につかまりながら体を引き上げ続ける。場所によってはつかまる木がなくて進路に迷うところも。
踏み跡もあってないような登りだが、赤テープが進行方向をずっと示してくれているので、バリエーションルートにありがちな、変なところに乗り上げて進退窮まってしまうようなことにはならなかった。頭上の木々も落葉したものが目立ち始め、富士山と再び対面する。
最後のひと頑張りで平坦地に登り上がる。ここは鞍吾山最高点ということで、西へ稜線伝いに3つのピークが並んでいるらしい。それを辿って次の(中央)ピークに行ってみる。展望ありと聞いていたが、南側斜面は木が伸びて富士山は見えにくくなっていた。それでも全く見えないよりはいい。
ここをさらに西へ進めば、滝子山東稜のルートに繋がるが、明日も他の山に登る予定があるため、今日のところはここまでとする。
最高点まで戻って、今度は稜線伝いに東へ行く。少し下ったところに鞍吾山の山名板と三角点があったので、大休止とする。樹林に囲まれた静寂境だが、腰を下ろすスペースもありゆっくりできる。
なお、ここにも南東側から尾根筋が上がってきており、踏み跡も付いているようだが、どこに通じているのか不明である。逆に、滝子山東稜から鞍吾山にやってきた時に間違えてここを下ってしまいそうである。試しにこの尾根を少し降りてみたら、木の間から富士山が見えた。
下山地の恵能野方面へ、北東に伸びる尾根を下る。こちらも煩雑にテープはついているが、あまりの急傾斜で足がすくんでしまう。登りではかすかに認められた踏み跡も、こちらは全くない。
これが一般登山道なら、歩きやすいようにジグザグに道が切られているだろう。バリエーションではそうもいかず、転落しないように一歩一歩、足元を確かめながら下っていく。
途中で北方向に分かれる尾根があり、同様にテープが付いていたので迷いやすいが、進むべきはあくまで北東の尾根筋である。この下りは思いのほか長く、短い直線距離の間で何百メートルもの高度を一気に落とした。
植林帯に入ると急なところは終わり、やがて沢音が聞こえると程なく林道に降り着いた。ほっと一息である。
恵能野川沿いにつけられた林道は未舗装で、まだ登山道の途中のようなデコボコしたところもあった。恵能野川を流れる水はきれいで、残り少ない紅葉を鮮やかに映していた。
神社の前で舗装道路に合流。初冬の静かな恵能野集落を見ながら、林道下り口から30分ほどで遊仙橋バス停に到着。バスはすぐ来た。地元のおばさんや学生で満員の小型バスに揺られ、20分ほどで観光客で混雑する大月駅に着いた。まだ1時前で日も高い。青空もいっぱいである。
小さいながらも足を使わせてくれた、ピリリと辛口の山だった。